緋色のサファイア第9話

まえがき

脱出に成功したハルカちゃんとエリック大佐、撃墜されてしましましたね…。戦闘機といえば撃墜!と勝手に思ってます笑 映画とかだとあっという間にやられてるイメージ…笑 二人は無事に生きて帰ることができるのでしょうか?! できないとこの話が最終回になっちゃうんですけどねw

 

前回のあらすじ

反政府軍本部に囚われていたハルカだが、先に捕まっていた政府軍特務大佐であるエリックと一計を案じ、独房からの脱出に成功する。本部を脱出し、戦闘機を奪って脱出する事に成功した。エリックの巧みな操縦により追撃してくる敵機を返り討ちにしたが、銀河政府勢力圏の惑星ホスファスに近づいたところで政府軍機に敵と誤認され撃墜されてしまう。機体から脱出し、二人は惑星へとゆっくり降下していった。

 

 

 

激しい振動とともに、ガサガサと木の枝を擦る音がした。無事に着地したようだ。

「よし、着いたよ。さ、ここはちゃんと空気がある惑星だから出ても大丈夫。」

「そ、それは良かったよ…。」

エリックが操作すると、風防が開き、外の空気がスッと入ってきた。

「やったー!やっと外の空気が吸えるよ!」

「長かったねー!さて、救助用のビーコンを起動して…あれ?」

「どうしたの?」

「あはは…。ビーコン…救難信号を出す機械が壊れてるっぽい…。」

「えー…!」

ハルカの声が当たりに響いた。暖かい風が吹き、木々の葉が擦れる音がした。

「ね、エリックの能力で助けとか呼べないの?!」

「それが…戦闘機をハッキングして無理やり操縦するのにミュータントのエネルギー全部使っちゃってね…。使えるようになるまで100時間くらいかかるかなぁ…。あ、これ習ったよね?」

「そんな!今はただの人間と同じって事?! うわ…どうしよう…。」

「あはは…味方の惑星だし、ここから先はどうとでもなるよ。」

ハルカは困った顔であたりを見回した。生い茂った木々の間から日差しが差し込んでいる。少し暑い。じんわりと汗ばむのが分かる。

「そうだっ!ミサイルを上空に撃って、爆発するの見つけてくれないかな?」

「なるほどねぇ、いい考え!君のエネルギーが切れるまで、何発くらい撃てるんだい?」

「うーん、分かんない…。」

「じゃ、無暗に撃たない方がいいね。一発では見つけてくれないだろうし…。」

「そっかー…。」

沈黙の時間が続く。エリックは地べたに寝ころび、ハルカは座り込んで辺りを眺めていた。「ねー、エリック?」

ハルカが問いかける。応答はなかった。

「あ、寝ちゃってる…。そっか、疲れたよね。」

ハルカもその場で少し横になった。脱出してからどのくらい経ったのだろう。エリックの後ろで座っていただけだったが、精神はずっと張りつめていた。緊張の糸が切れたのか、急にハルカにも睡魔が忍び寄った。

「だめだめ、今は私がエリックを守らないと…。」

今のエリックは普通の人間と大差がない。敵が来た時に眠っていたのでは、ひとまずは命の恩人であるエリックを守ることができない。ハルカは無理をしてでも起きておこうと、眠りそうになっては目を見開いたり、体を動かしたりして耐えた。

「あ…カフェイン作ればいっか…。」

ハルカはその場でカフェインを合成し、飲み込んだ。

「うう…苦い…。」

カフェインの不味さと引き換えに、眠気は引いていった。

 

数時間が経過し、ハルカも疲れを隠せなくなってきた。エリックはまだ起きそうにない。そう言えば脱出する日は朝食をとっていなかった。食べ物のことを考え出すと、もう止まらなかった。

「お腹すいたなぁ…。食べ物は組成が複雑すぎて作れないからなぁ…。」

仕方なく、糖を作っては少しずつ食べた。甘味は疲れを和らげてくれるが、何度も食べるとやはり飽きてくる。アミノ酸をかけ、クエン酸をかけ、いろいろ試したがやはり食材の味には敵わない。

「エリックも起きたら何か食べたいだろうし…。木の実とか、魚とかどこかにいないかな?」

エリックを置いて離れるのは少し迷ったが、どうしても何か食べ物を用意したいと思ったハルカは少し出かけることに決めた。機体から分離した射出座席の中にエリックをそっと寝かせ、食べ物を探しに落ち葉を踏みしめた。

 

「ん…。寝てしまっていたか。お腹すいたなぁ…。携帯食が射出座席にあるはず…。」

ハルカが離れて少し経った後、目を覚ましたエリックはゴソゴソと射出座席の中を調べた。

「あった。さーて、敵の非常食について情報収集を行う!」

袋を開けると、香辛料のいい香りが漂った。

「ん、うまい!何と言う料理なのかよく分からないけど、いい味付けだ!そうだ、ハルカちゃんにもあげよう。外で休んでるのかな?」

エリックは外に出たが、ハルカの姿はなかった。日は傾き、すでに夕方になっていた。

「え、ハルカちゃん?どこに行ったんだい…?」

どこにもハルカの姿はなかった。敵にさらわれてしまったのだろうか。それとも、ずいぶんと寝てしまったから愛想を尽かしてどこかに行ってしまったのだろうか。いろいろな考えがエリックの頭を駆け巡った。探しに行きたいが、今はミュータントの能力を使えない身、そう易々と動き回るわけには行かなかった。

「マジで…?どうしよう、これはマズイな…。」

 

日がさらに傾き、気温が少しずつ下がってきた。そんな時、遠くから足音が聞こえた。エリックは咄嗟に低木の背後へ身を隠した。隙間から足音の方向を見ていると、見慣れた人影が少しずつ大きくなって来るのが見えた。ハルカが戻ってきたのだ。エリックは胸をなでおろし、木から出てきた。

「あれ?エリック起きたの?おーい!」

「やった!戻ってきてくれたんだね!起きたら居なかったから心配したよ…。って、もしかして食べ物を探しに…?」

ハルカの両手には、口に蔓を通した良いサイズの魚がぶら下がっていた。

 

 

「そう!あっちの川にたくさん居たよ!焼いて食べよ!」

嬉しそうに笑みをこぼすハルカに、エリックも口元が緩んだ。

「ん?エリックなんだかいい匂いが…。」

「さっき携帯食…あ、いや、何でもないよ!」

「えーっ!食べ物あったの?!」

「ま、まぁあまり美味しいものでもないから、魚捕ってきてくれた方がよかったよ!」

「もー、私にも後でちょうだいよね!ぷんぷん。」

 

二人は少し開けた場所に移動し、ナイフで魚の下処理をした。串を通し、塩を付けた魚を焚火で焼いた。あまり手の込んだ味付けはできないが、それでも程よい塩味と魚の旨味は疲れた体を癒してくれる。あっという間に魚を平らげた。

「ふ~、美味しかったよ!ハルカちゃん、ありがとう。」

「美味しかったねー!食べたら眠くなってくる…。」

「僕はしばらく休んでたから、ハルカちゃん寝ていいよ。見張りは任せておいて。」

「そーお?じゃ、お言葉に甘えて…。」

ハルカは横になると、すぐに寝息を立てて眠り始めた。魚を食べている間に日は沈み、焚火がハルカの寝顔を照らしている。満天の星空を眺めながらエリックは呟いた。

「ハルカちゃん?寝たよね…。はぁーあ、思ったより迎えが来てくれないぞ…。どうやって帰ろうかなぁ…。」

涼しくなった風が、二人の間を優しく通り抜けていった。

 

 

あとがき

ひとまずは無事だったようです!エネルギー切れ云々の話してますけど、彼らはずっと連続して特殊能力を使い続けると尽きてしまうという設定です。で、エネルギー作るのにエネルギー使ってるので、底をつくと回復に時間がかかるのです。ちなみに現実の生物がエネルギー作るのにも、最初は別からエネルギー投入しないとサイクルが点火しないのです。詳しくは解糖系とかググってみてください笑

 

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2024年1月21日