緋色のサファイア第1話

まえがき

自分のサイトを新たに立ち上げました!

という事で懐かしい1話から順にあげていきます(^ཀ^)

イラストとかも描きなおしたいのですが、描きなおしたところで来年には同じこと言ってそうなので当時のままにしておきましょうw

 

 

原石が一つ。

 

少し赤く色づいた、木漏れ日降り注ぐ小川の岸。一人の少女が腕を伸ばして水面を見つめていた。少女が見つめるその先には、透明な水の中をゆっくりと泳ぐ魚がいた。一匹の蚊が、少女の腕に降り立った。もう一方の手をゆっくりと近づけ、パッと蚊をつまみ、潰さないように水面に浮かべる。少し眺めていると、魚が水面近くに浮き上がり、蚊を食べようとする。その瞬間を狙って、少女の手から細くとがった光がすっと伸び、魚を貫いた。少女は口元を緩ませたが、言葉を発することは無い。魚をどう料理しようか考えながらの帰り道、轟音とともに空を火の玉が横切った。数秒後、少し離れたところで爆音が聞こえた。少女は少し迷ったが、非日常見たさで爆発の方向に向かった。

爆発現場に着くと、見たことのない物体がバラバラになって燃えていた。呆然と見ていると、透明な窓の中に人のような姿があることに気づいた。少女は駆け寄り、恐る恐る窓を叩いてみたが動きはない。少し考えてから、少女は一本の光の筋を手から出し、中の人を避けながら窓に突き刺した。そのままスッと、窓を切って中の人を引っ張り出した。体格の良い、男であった。左腕が折れているようだった。少女はその人物を抱え、自分の家へと向かった。

 

朝の陽ざしが差し込み、男は眩しく思いながら目を覚ました。見たことのない木の小屋のような場所だった。ぼうっと辺りを見渡すと、視界の隅に人が動いているのが見えた。ふと我に返り、男は拳銃を探した。幸い、すぐそばに転がっているのが見えた。男は銃を拾い、慣れた手つきで構える。

「動くな!ここはどこだ!?」

視界に入った人は青いノースリーブにミニスカートを身に着けた少女だった。少女は驚いた顔でこちらを見る。静寂があたりを包み込む。風に揺れる木の音だけが聞こえる。男は、少し落ち着いて周りを観察し始める。自分の着ているものが変わっていることにようやく気付いた。自分は何をしていたのだろう。そうだ、戦闘機で植物の保護惑星、プランティアを守る作戦に参加していたのだ。それで敵に撃墜されて、機体から脱出できずに不時着したはずだった。本来なら大怪我を負っているはずなのに、不思議と無傷だった。左腕がどうも動かしにくいと思ったら、添え木のようなものが布で巻かれている。先に沈黙を破ったのは男の方だった。

「もしかして、助けて、くれたのか…?」

少女は言葉を発さず、しかしゆっくりと頷いた。男は拳銃をおろし、穏やかに話し始める。

「失礼した、自分はアシュリー・ナガハマ、階級は少佐だ。勝手を言って申し訳ないが、無礼をお許しいただきたい。君は、ここに住んでいるのかい?名前は?」

少女は困った顔をして、首をかしげながら、初めて声を発した。

「あ…え…。」

絞りだしたような声を聞くことができたが、しかし言葉は話せそうになかった。

「言葉が分からないのか…?」

少女は首を横に振る。どうやら、伝わってはいるようだ。

「そうか、だが君は命の恩人だ。何か礼をしたいが、あいにく敵にやられたところでなにも持ち合わせてはいない…。そうだ。」

アシュリーは、着ていたパイロットスーツから1枚の輝く物を取り出した。

「昔、この星…プランティアで使われていた銀貨だそうだ。もし君がずっとここに住んでいるのなら、懐かしく思うかもしれない。何かの役に立つというわけではないかもしれないが、せっかく出会った思い出に、取っておいてほしい。」

少女に、1枚の銀貨を手渡すと、少女は嬉しそうに銀貨を眺め始めた。

「あ…あり、がとう…。」

はじめて、少女は言葉を話した。アシュリーは一安心し、少女に質問する。

「言葉を思い出してきたみたいだね。名前、言えるかい?」

少女は首をかしげる。名前を思い出せないようだった。家の中を見回すとホコリを被ったアルバムのような冊子が目に入る。冊子を開いてみると、今はほとんど使われていない、プランティア語で記載されていた。しかし、最後のページには共通語でサインのようなものが書かれていた。寄せ書きのようであったが、このアルバムの持ち主と思われる文字列は共通していた。その中に1つ、共通語で書かれたメッセージがあった。

「ハルカ…と書いてあるのか…?もしかして、君の名前ではないかな?」

少女は、一瞬驚いたような顔になったが、すぐにパァっと明るい表情になった。

「う…ん…!わたしの、名前…!」

どうやら少しずつ思い出したようだ。

「そうか!君はハルカというんだな!名前が分かってよかった…!君の名は、一生忘れないよ。改めて、今回はありがとう。」

ハルカはにっこりと笑顔を浮かべる。

「さて、俺の捜索隊が来ているかもしれない。また改めてお礼をさせてもらおう。戦闘機の所まで戻って、記録システムを回収しなければならない。どちらの方向にあるか、教えてくれないか。」

「あっち…すぐ近くだよ。」

「ありがとう。この恩は忘れない。かならず、また戻ってくるから待っていてくれ。」

アシュリーが家を出ようとすると、服をつままれるのを感じた。

「私もいく。」

ハルカが付いてきてくれようとしている。しかし、ここからは敵兵がいるかもしれない。無関係の少女を巻き込むわけにはいかなかった。

「ここからは、危険な奴がいるかもしれないから、君は来ない方がいい。できれば、今日1日くらいはすまないが家の中で隠れていてほしい。大丈夫、また来るからさ。」

ハルカは不安そうな顔で頷いた。

「じゃ、また会おう!」

アシュリーは颯爽と、墜落現場の方へと向かっていった。

 

1時間ほど歩いたが、なかなか着かない。手元の方位指示措置は間違っていない。ハルカの言うとおりに進んできたが、そういえば、「あっちの方」としか聞かなかった。え?冷静になってみれば、そんなので分かるわけないやん?ハルカはすぐ近くって言ってましたけど?!そもそもすぐ近くなら、味方なり敵なり居そうやん?助けてもらえて気が抜けていたようだ。っていうか、ハルカは言葉をまともに話せないし、細かい場所を教えてもらうのなんて無理じゃね?そもそも人がいない星に墜落した時点で詰んでる気がするんですけどウケる~w。いやまぁ、助けてもらえて命があるだけで奇跡だけど、その命、このままだと無駄になっちゃうよ?あーあ、こんなことなら、あのままハルカとキャッキャウフフしながら遊んで暮らしたかったなぁ…こんな怪しい奴、一緒に住んでくれなさそうだけど…。

アシュリーは焦りながら、後悔しかしていなかった。遭難したときに最もやってはいけないのは、不確かな情報で動き回ることである。しかも、少し日が傾いてきた気がする。このままだとマズイのは明らかである。

 

人の気配がして、サッとアシュリーは木の陰に身を隠す。敵軍の兵士だ。木々の隙間からは、木がなぎ倒されているような場所が見えた。まだ新しい。どうやら、自分が墜落した場所のようだ。敵が墜落した戦闘機を持ち帰ろうとする所に遭遇したようだ。草むらを利用し、少し近づいてみる。非常にまずい。敵の幹部、キョウカの姿が見えた。相手は毒使いのミュータント、とても勝てる気がしない。ミュータントに対抗できる武器は、このオブシディアンの短剣だけだ。音をたてないように離れるしかなかった。ここを離れよう、そう思った瞬間、手に痛みが走った。ネズミに噛まれたようだった。驚きと痛みで、大きく動いてしまった。それがいけなかった。ミュータントは少し意識すれば、数秒先の未来を知覚できる。少し動いて気配が伝わり、ミュータント特有の能力に引っかかってしまったらしい。キョウカの毒の触手が1本、こちらに向かってくるのが見えた。戦うしかない。オブシディアンの剣を抜き、間一髪で触手を切り落とす。完全に見つかってしまった。その場から離れるのを最優先に、何とか離脱を試みる。それをあざ笑うかのように、4本の触手がこちらに向かってくる。もうダメだ…。

2秒後、自分が生きていることに気付く。え?やっぱ死んでる??ですよねー…。と思ったら、目の前でさっきまで向かってきていた触手が切り刻まれている。閃光ほとばしるナイフと、軽やかな身のこなしで向かってくる触手を次々に切り刻む。

 

 

見覚えのある姿。恩人、ハルカである。なんてこった。彼女もまた、ミュータントだった。ハルカがミュータントであることが敵に知られてしまった。だが、今はぜいたくを言っている場合ではない。敵のキョウカが右手を前に突き出す。ヤバイ。

「ハルカ、よけろ!!」

叫ぶと同時に、自分は岩陰に隠れる。軍人なのに、ミュータントとはいえ民間人のハルカにその程度しかしてやれない。悔しさがこみ上げる。一瞬の間もなく、無数の液滴が飛んでくる。あたりを静けさが覆う。彼女の無事を祈りながら、岩から顔を出す。ダメだ…。ハルカは毒液をもろに浴びていた。1分もしないうちに、彼女は動けなくなってしまうだろう。打つ手なしか…。

だが、ハルカが繋いでくれたこの命、無駄にするわけにはいかなかった。何かないか、この状況を切り抜ける方法は。人は追い込まれると、一瞬のうちに無数のことを考えられるものだ。数秒のうちに、しかし何時間にも思える中、アイディアは浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。そんな時間を打ち払うように、風と共にハルカの姿が消えた。次の瞬間、ハルカのナイフのような閃光がキョウカに届く。キョウカは間一髪で、剣を出して受け止めていた。

「へぇ…なかなかやるじゃない。」

キョウカの静かな声が聞こえる。ハルカは身をひるがえし、いったん距離を取る。時間がたつほどに毒が回り、ハルカに不利になるだろう。双方、にらみ合いが続く。おそらく、キョウカはわざとハルカが仕掛けてくるのを待っているのだろう。おかしい、もう2、3分は経っている。普通の人間なら、あれほどキョウカの毒を食らって、30秒、ミュータントでも2分もあれば立っていられないはずだ。しかし、ハルカは表情も変えずに相手をにらんでいる。もしかして、耐性があるのか…?信じられない。キョウカの毒は複数種類の毒が混ざっていて、その全てに耐性をもつなど、生物には不可能だと考えられていた。

キョウカがすこし焦り始めている気がした。次の瞬間、ハルカが飛び出し、ものすごい勢いでキョウカに斬りかかる。キョウカは防戦一方である。何撃目か分からなかったが、ハルカのナイフがキョウカに届き、その腕に傷をつけた。赤い血がほとばしる。しかしハルカの動きはお世辞にも戦いなれているとは言えなかった。一瞬の隙を逃さず、キョウカの毒の剣がハルカの左肩に傷をつける。

「―っ!!」

ハルカは攻撃をやめ、いったん引き下がる。あまり深い傷ではなさそうだ。しかし、傷口からはさらに毒が入り込んでいるだろう。それでも何故、ハルカは立っていられるのだろうか。いつの間にか、茫然としている自分に気付く。ハッとして周りの状況を確認する。キョウカの他に、通常の敵兵は8人。しかし、敵兵も、毒をいくら食らっても倒れないハルカに唖然としているようだった。何かできることはないか。そうこうしているうちに、二人の激しい斬りあいが始まる。普通の人間である自分には、介入する隙はなかった。キョウカの斬撃を、ハルカがナイフで受け止める。

「あぅ…っくっ!!」

グキっという鈍い音と同時に、ハルカの苦しそうな声が聞こえた。キョウカの剣を受け止めている間、毒の触手がハルカの脇腹に叩きつけられたのである。肋骨が折れてしまったのだろうか、苦しそうな表情で、ハルカは何とか持ちこたえていた。既に大きく損傷し、戦いにも慣れていないハルカがやられてしまうのは時間の問題である。何とかならないか…。

「息をするのも辛いでしょう?私達はあなたの敵じゃないわ。少しおとなしく、話をしない?」

キョウカが笑みを浮かべながらハルカに語り掛ける。ハルカは何も答えない。

「ハルカ!話を聞くな!!俺はいいから逃げろ!!」

アシュリーは気付いた時にはこう叫んでいた。

「ふうん、あなたハルカちゃんって言うのね。大丈夫よ、あなたを傷付けたのは悪かったけど、私達は怖くないわ。こっちにいらっしゃい。」

この誘いに、ハルカもどうしたら良いのか分からないのだろう。心の中では迷っているのかもしれないが、相手の目をしっかり見たまま、力を緩めることはなかった。大した精神力だ。しばらく続いた均衡は、突如として破られた。キョウカがまた触手で攻撃しようとしたのだ。しかし、2度目は通用しないようでハルカはさっとかわす。やはり骨折しているのか、動きが鈍くなっている。しまった、今のはフェイントだ。キョウカはハルカに斬りかかった。

「仕方ないわね、少し眠ってもらうよ。」

キョウカの殺気がこれまでよりも強くなった。これはマズイと直感で感じた。幸い、自分は今、キョウカの後方に位置している。おそらく、こちらのことは気にも留めていないだろう。アシュリーは咄嗟に黒曜石のナイフをキョウカに投げつけた。

「なっ…!」

運よくキョウカの脚にナイフが刺さった。ハルカはチャンスを逃さず、一瞬ひるんだキョウカに光るナイフを投げつけ、それと同時に新しいナイフを展開して斬りかかる。

「あう…!!」

どちらの声か分からなかったが、次の瞬間、キョウカの腹部から血が噴き出した。ハルカのナイフは、深くキョウカを切り裂いていた。やったぞ。これで何とか…。しかし、ハルカの顔からは尋常ではない量の汗が噴き出している。

嫌な予感がしてハルカの方に目をやると、彼女の胴体をキョウカの毒の剣が貫通していた。

「うぅ、くぅ…。」

キョウカは剣をズっとハルカの胴体から引き抜いた。ハルカはガクッとその場に膝を落とした。それと同時に、傷口から大きく出血し始めた。これまでか…。

「なかなか面白かったわよ。まだ死んじゃ駄目よ、ハルカ。」

荒い息を整えながら、キョウカが静かに語りかける。キョウカはスっとこちらに振り向く。終わりだ…。死を覚悟した。ハルカ、巻き込んでしまってすまない。キョウカがゆっくりとこちらに歩いて来ながら、ハルカが最初に切り落として短くなった触手を延ばしてきた。そういえば、再生しないのだろうか。案外、冷静に考え事をしている自分に、少し笑ってしまった。

 

次の瞬間、キョウカのいる位置が突然燃え上がった。同時に、ほかの敵兵も火柱が襲う。この炎…。あぁ、来てくれたか、友よ。

「すまん、遅なってしもうた!アシュリー、無事か?!」

ちょうど同時期に入隊した友人にして今は上官、炎の力を持つミュータント、ブレイズ特務大佐だ。

「ちっ、流石に分が悪いわね…。」

キョウカがサッと逃げていく。アシュリーは、ハッと思い出したかのように、倒れたハルカに駆け寄る。

「アシュリー、無事…?」

そんな場合でも無いだろうに、ハルカが細い声で俺の無事を確認してくれる。

「ハルカ!俺は大丈夫だ!巻き込んでしまってすまない!持ち堪えてくれ!すぐに衛生兵が来てくれる…!」

ハルカは安心したように微笑み、と同時に静かに目を閉じた。大丈夫、まだ息はある。

衛生兵がこちらに向かって来るのも待てず、アシュリーはハルカを抱き抱えて味方の救援船の方に走った。

「おい!そいつ、お前を助けてくれたんか?!味方なんやな!はよ助けたらんと、こっちや!」

「あぁ、墜落した俺の介抱をしてくれた上、こんなに小さな体でキョウカと必死に戦ってくれたんだ。この子がいなければ、俺はとっくに死んでただろうさ。」

身長150センチと少し、小柄な女の子だ。初めて会ったにも関わらず、恐怖も押し殺して、俺なんかのために文字通り命がけで戦ってくれた。何としても助けたかった。いや、助けられたのはこっちか…。

味方の輸送機が見えてきた。衛生兵がこちらに走って来る。まずは止血だ。衛生兵が刺された患部を確認する。が、衛生兵は、訳がわからないと言いたそうな顔をして、手を止める。

「どうした!早く手当してくれ!腹を刺されて、肋骨も折れてるかもしれないんだ!」

「失礼ですが少佐、この娘、本当に怪我を?」

「大怪我だ!この血で濡れた体を見れば分かるだろう?」

「服は血で濡れているんですが…どこにも傷がないんです…!」

「なんだと?!いくらミュータントとは言え、この短時間で治るわけが…」

「ひとまず、ここでできることは無さそうです。大量出血したようなので、輸血だけ行いながら病院に急いで搬送しましょう。」

「そうか…分かった、すぐに出発するぞ!」

 

輸送機は、一番近くの医療体制が整っている基地に向かって飛び立った。その道中、アシュリーはブレイズや兵士達に根掘り葉掘りハルカについて聞かれる事になった。まったく、ここまで大変だったんだから、少しは休ませて欲しいものだ。

 

 

あとがき

という事で、今読み返すと拙いところばかりですが、書き直すの面倒なので当時のままを残したいのでそのまま上げてみました(^ཀ^)

次の話もぜひ読んでいただけると喜びます(^ཀ^)

ありがとうございましたー!

 

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2023年11月2日